結論:部品ごとに優先する特性を決めてから材料を絞る
xEV(電動車両)の樹脂部品を選ぶとき、つまずきやすいのは「どの樹脂が正解か」を先に探してしまうことです。1つの部品には複数の要求特性が重なるため、1つの材料ですべてを満たすのは難しくなります。出発点になるのは、その部品で材料に求める特性の優先順位を決めることです。そのうえで、優先する特性を材料で満たすか、設計で補うかを切り分けていきます。
xEVの樹脂部品を部品ごとに見ていくと、次の3つが判断軸になります。
- 部品ごとに置かれる環境と役割が違うため、優先する特性そのものが入れ替わります
- 1つの部品の中でも複数の要求が重なり、性能を1つ上げると別の性能が下がる背反が出てきます
- 要求の厳しさによって、使える材料カテゴリーが限られる部品と、設計しだいで自由度が残る部品に分かれます
扱う範囲は、部品ごとの要求の全体像と、どこから検討を始めるかまでです。個別の材料グレードや最終的な選定判断は、各部品の記事で掘り下げます。「材料選定ができるようになる」ではなく、「自分の部品で何を見ればよいか、次にどこを読めばよいかが分かる」ことを目指しています。

基礎整理:用語と範囲をそろえる
耐トラッキング性・難燃性・耐薬品性・耐ヒートショック性といった特性そのものの原理は、特性ごとに解説した記事にまとめています。ここでは特性の意味を必要な範囲で補い、原理の詳しい説明はそれらの記事にゆだねます。特性の見方の総論は、材料選定と特性の関係をまとめた記事から確認できます。
高電圧という言葉の境界も、ここでそろえます。UN-R100(自動車の電気安全に関する国際規則)では、直流60V超、交流30V超を境に高電圧側として扱われます。直流60V以下(12V系や48V系など)は低電圧側です。ISO 6469-3も、電動車の電圧クラスB回路(高電圧側)の電気安全要求を扱う規格です。現場ではこの高電圧側の部品をまとめて「高圧(こうあつ)」と呼ぶことが多いため、この記事でもその呼び方に合わせて「高圧コネクタ」と表記します。ただし、規格本文の適用範囲や版差、各国法規への反映は別途確認が必要です。
材料の「なぜ」:1種類の高性能樹脂を全部品に適用できない理由
「1種類の高性能な樹脂を全部品に適用できないのか」という疑問は自然なものです。理由は、部品ごとに置かれる環境と役割が違うことにあります。
高い電圧がかかる絶縁部品では、表面が汚れや湿気にさらされても電気絶縁性を保つことが求められます。冷却液に浸かる部品では、高温の冷却液に触れ続けても劣化しにくいことが求められます。ある部品で最重要になる特性が、別の部品では優先度の低い特性になります。
そのうえで、1つの部品の中でも複数の要求が重なります。ここで、性能を1つ上げると別の性能が下がりやすいという背反が出てきます。難燃性を高めるために難燃剤を加えると、強度や靭性が下がりやすくなります。ガラス繊維は強度や剛性の向上に寄与する一方、射出成形時の繊維配向によって反りが生じることがあるため、寸法設計で考慮が必要になります。こうした背反が処方・混練り・成形のどこで生まれるかは、性能向上と失うものを横断的に整理した記事にまとめています。
材料カテゴリーごとの大まかな傾向を先に押さえておくと、部品ごとの話を読み進めやすくなります。ここで挙げるのは相対的な傾向であり、個別グレードの保証値ではありません。駆動用モーターの周辺のように高い耐熱性が求められる部品では、PPS(ポリフェニレンサルファイド)やPPA(高耐熱のポリアミド系樹脂)が候補になりやすい傾向があります。幅広い部品で候補になりやすいのは、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPA66(ポリアミド66)です。バッテリーパックの構造まわりでは、変性PPE(変性ポリフェニレンエーテル)が候補として提案される公開例があります。いずれも傾向であり、特殊なグレードや設計側の対応によって例外もあります。
判断フレーム:要求の重なりと、要求の厳しさで見る
部品ごとの要求を並べると、2つの見方が立ちます。
1つは、要求の重なりです。1つの部品には複数の要求が並び、それらを1つの材料で同時に満たそうとするほど候補は絞られます。どの要求とどの要求が重なっているのかを先に把握すると、候補が絞られる理由と、設計で補える余地がどこにあるのかを分けて考えられます。
もう1つは、要求の厳しさです。要求特性の組み合わせが厳しく、そこに薄肉・高温・絶縁といった条件が重なる部品では、使える材料カテゴリーが限られます。一方で、要求の有無そのものが設計しだいで変わり、材料の自由度が比較的残る部品もあります。材料が絞られやすい部品と、設計・要求しだいで方向が変わりやすい部品があるという区別を持っておくと、部品ごとの整理が読み分けやすくなります。
次の図に、5部品群ごとの主な要求特性と候補材料の例を整理しています。

用途別・条件別の整理:5つの部品群
バッテリーパック
この記事でいう「バッテリー」は、主にxEVの駆動用リチウムイオンバッテリーと、そのセル・モジュールを収めるバッテリーパックを指し、補機用12V鉛蓄電池などは対象外です。この部品で樹脂が担うのは、パックやモジュール内のセルホルダーや絶縁・保持部品、コネクタやセンサーまわりの部品などです。
駆動用リチウムイオンバッテリーは、駆動モーターやPCU周辺と比べると比較的低い温度域で使われます。この温度要求の違いによって、大型の筐体(きょうたい)などではPP(ポリプロピレン)系材料も候補に入ります。実際に、難燃グレードのPP系材料や、ガラス繊維で強化した難燃PP系材料が、xEVの駆動用リチウムイオンバッテリーのモジュール筐体やバッテリーパックカバーへ使用・量産採用された公開例があります。ただし、これは難燃PP系がバッテリー筐体全般の標準材料であるという意味ではありません。
セルホルダー、絶縁・保持部品、コネクタ、センサーまわりでは、難燃性、電気絶縁性、寸法安定性、電解液への耐性(耐電解液性)などが材料検討の起点になります。ただし、これらの個別要求があるだけでエンジニアリングプラスチックが必要になるわけではありません。寸法精度、剛性、薄肉流動性を含む複数要求の水準と同時成立性を見て、その組み合わせをPP系・汎用樹脂では満たしにくい場合に、エンジニアリングプラスチックが候補になります。部品形状に応じて、寸法、反り、充填も確認します。
この部品では、従来のエンジニアリングプラスチック選定にはなかった、熱暴走への配慮という要求軸が加わります。熱暴走とは、バッテリーセルの内部で発熱を伴う反応が進み、その熱がさらに反応を加速させて温度が急上昇する現象です。1つのセルで起きた熱暴走が周囲のセルへ次々に伝わることを伝播と呼びます。熱暴走時の伝播を抑えるには、難燃性・電気絶縁性・耐熱性に加えて、熱を隣のセルへ伝えにくくする断熱の要求も重なります。ただし、材料単体で安全が決まるわけではなく、セル配置・構造・試験条件・規格要求と組み合わせて判断するものです。
そのほかの材料方向としては、変性PPEが候補として提案される公開例があります。これもバッテリーまわり全体に共通して使われるという意味ではありません。用途や要求によって、PBT、ポリアミド系、PPSなども検討対象になります。設計側ではパック・モジュールの寸法安定と組み付け精度、成形側では薄肉部の反りや充填、評価側では伝播抑制に関わる試験条件を、材料の候補とあわせて見ていきます。セルホルダー、絶縁・保持部品、コネクタ周辺といった部品別の要求の違いと、そこからの材料の絞り込みは、バッテリーパックを扱う記事で個別に整理します。
高圧コネクタ
この部品で樹脂が担うのは、充電ガン・インレットから、機器間をつなぐ高電圧コネクタまでの、絶縁・保持部品です。ここでは、耐トラッキング性、電気絶縁性、そして薄肉で複雑な形状でも寸法が安定していることが求められます。
トラッキングとは、絶縁物の表面に汚れや水分が付いた状態で電圧がかかり、微小な放電が繰り返されて表面が少しずつ炭化し、導電性の通り道ができてしまう現象です。耐トラッキング性はこの通り道のできにくさを指し、CTI(比較トラッキング指数)はそれを比較するための指標です。指標の値そのものと、部品として必要な耐トラッキング性は同じではないため、両者を分けて扱います。
これらに加えて、耐熱性、耐湿熱性、耐加水分解性といった環境への耐性も確認対象になります。部位によって要求は少しずつ違い、充電ガンでは落下衝撃への強さが、機器間の高電圧コネクタでは熱源近くでの耐熱性が加わることがあります。難燃性も、部位や要求によっては求められます。薄肉で複雑な形状という制約が厳しいうえに、そこへ複数の要求が重なるため、1つの材料で同時に満たそうとするほど候補は絞られます。
材料方向としては、PBT、PA66、PPAなどが候補に挙がる場合があり、耐熱性・耐トラッキング性・寸法安定性・耐吸水性・耐加水分解性、そして必要に応じた難燃性という要求の重なりで候補が絞られます。耐熱要求が高い場合には、PPAが候補になりやすい傾向があります。設計側では沿面距離や絶縁距離の確保、成形側では薄肉部の充填とウエルドの位置、評価側では汚損環境を踏まえた条件設定を、材料候補とあわせて見ることになります。CTIの読み方と部品別の要否は耐トラッキング性を扱った記事、難燃性の用途別の選び方は難燃材料の選び方をまとめた記事で確認できます。充電ガン、インレット、機器間コネクタという部位ごとの要求差と候補材料は、高圧コネクタを扱う記事で分けて整理します。
冷却部品
この部品で樹脂が担うのは、バルブや配管といった冷却系の樹脂部品です。ここでは、高温のLLC(冷却液)に触れ続けても劣化しにくい特性(耐LLC性)、耐熱性、寸法精度、そして接合の信頼性が検討軸になります。
LLC(ロングライフクーラント)は、グリコールなどを含む水系の冷却液です。触れる温度は車両の構成によって変わります。エンジンを搭載する車両では、120℃前後の冷却液への耐性が求められることがあります。エンジンを持たない電気自動車や燃料電池車では、これより低い温度帯になります。ただし、電気自動車でもエンジン搭載車と同じ水準の要求を置くOEMもあるため、車両の構成だけで温度条件を決めず、要求仕様を確認します。
耐LLC性が問われる主な要因が加水分解です。加水分解とは、水分がポリマー分子の結合(ポリエステル系のエステル結合など)を切り、分子量が下がって強度などが低下する劣化です。加水分解を起こしやすいポリマーは、高温の冷却液の中で特性が低下しやすくなります。バルブなどでは、相手部品と組み合わせるための寸法精度も求められます。
この部品では、まず使用環境が候補を大きく絞ります。高温のLLCに長時間さらされるため、この環境に耐えられる樹脂は限られ、耐熱性も含めて候補が絞り込まれます。次に確認するのが接合です。接合方法としては、振動溶着や、パッキンとねじによる締結が代表的です。溶着で接合する場合、溶着性と寸法設計の間でトレードオフが生じることがあります。溶着面を確実に接合するにはガラス繊維などのフィラーが少ないほうが有利になりやすい一方、寸法精度や剛性のために強化材を増やしたい場合もあるため、1つの材料での両立を確認します。ただし、溶着性や寸法精度はフィラー量だけで決まるものではなく、接合面の形状、押し付け条件、成形時の反りや面の出方も関係します。材料候補を絞る前に、接合方法と接合面の設計をどこまで固められるかを確認します。
材料方向としては、PPSやPPA、その他のポリアミド系材料が候補になる場合があります。耐薬品性の基礎的な考え方は、耐薬品性の選び方をまとめた記事から確認できます。設計側では寸法精度と接合面形状、成形側では接合面の反りと密着、評価側では実際のLLC種類・温度・時間での長期評価を、材料候補とあわせて見ることになります。接合方法の選択と実液評価の組み立てを含む選定の進め方は、冷却部品を扱う記事で掘り下げます。
駆動モーター
この部品で樹脂が担うのは、モーターの絶縁部品、具体的にはインシュレーターと端子台です。同じモーターまわりでも、この2つは要求が異なるため、分けて見ていきます。
インシュレーターでは、耐熱性、電気絶縁性、寸法安定性、そして薄肉部までしっかり充填できる薄肉流動性が検討軸になります。油冷モーターの場合は、ATF(冷却油)への耐性が加わることがあります。ATF(オートマチックトランスミッションフルイド)は、もともと変速機用の油で、油冷モーターでは冷却と潤滑を兼ねて使われます。耐ATF性は、この高温の油に長く触れても膨潤や劣化を起こしにくい性質です。冷却方式と熱設計によっては、絶縁材料に熱伝導に関わる要求が加わることもあります。
インシュレーターでは、薄肉部まで樹脂を流し込む流動性と、薄くても割れない強度が求められます。この2つは、1つの材料では両立しにくい組み合わせです。薄く流すためにフィラーを減らすと流動性は上がりますが強度が下がりやすく、強度を上げようとフィラーを増やすと流動性が下がり、薄肉部を充填しにくくなるためです。材料方向としては、PPSがモーターインシュレーター用途の候補として提案される公開例があります。要求条件によっては、ポリアミド系やPPA、さらには絶縁紙なども比較対象になります。
端子台では、耐熱性に加えて、耐トラッキング性や難燃性が求められることがあります。この2つをどのように両立させるかが、端子台の材料選定で検討点になります。材料方向としては、耐熱性に加えて難燃性・寸法精度(低吸水)・耐薬品性を重視する場合はPPS、耐熱性と耐トラッキング性を重視する場合はPPAが、選択肢として挙げられることがあります。PPAも難燃剤を加えれば難燃グレードにできますが、その分、靭性や流動性が下がりやすくなります。難燃剤添加による副作用は、難燃剤による性能への影響を扱った記事で整理しています。どの材料が該当するかは、要求の厳しさと部位の条件で変わります。インシュレーターと端子台それぞれの設計・成形・評価の見方は、駆動モーターの絶縁部品を扱う記事で分けて扱います。
PCU(パワーコントロールユニット)
PCU(パワーコントロールユニット)は、モーターを動かすための電力を制御する装置です。その周辺には、インバーターケース、バスバー(電流を通す導体)の保持・絶縁部、平滑コンデンサーのケースなど、要求の異なる部品が集まっています。この部品群では、要求の有無そのものが設計しだいで変わるため、どの部品にどの要求が付きやすいのかを先に整理します。
インバーターケースでは、耐熱性、寸法安定性、耐ヒートショック性が軸になります。耐ヒートショック性とは、温度の急な上下を繰り返し受ける環境での割れにくさです。樹脂と金属インサートのように、温度で伸び縮みする度合い(線膨張率)が違う部材が組み合わさると、温度変化のたびに界面へ熱応力が生じ、それが繰り返されて割れにつながることがあります。バスバーの保持・絶縁部では寸法精度が求められ、インサートや組付けの設計によって、耐ヒートショック性、耐トラッキング性、難燃性の要求が変わります。平滑コンデンサーのケースでは、耐熱性と寸法安定性に加えて、ケース材の吸水・透湿特性、シール構造、そしてポッティング材(内部を封止するために流し込む充填樹脂)との界面の密着を、それぞれ分けて確認します。
候補材料としては、PPS、PPA、PBT、ポリアミド系が挙がる場合があります。どれが該当するかは部品と設計条件で変わるため、要求の分岐を確定させてから候補を絞る順序になります。耐ヒートショック性の材料・設計の見方は、耐ヒートショックを扱った記事から確認できます。PCU周辺の部品別の材料方向と、インサート成形を含む注意点は、PCU周辺部品を扱う記事で整理します。
判断早見表
部品ごとに、最初に見る要求特性と、あわせて確認したい論点を整理します。自分の部品でどの特性を優先して確認するかを決める段階で使ってください。
バッテリーパック
- 条件
- 難燃性、電気絶縁性、寸法安定性、耐電解液性に加えて、熱暴走時の伝播を抑える観点を見たい
- 確認すること
- 難燃・絶縁・耐電解液に加えて、断熱をどう位置づけるかを確認します。難燃材料の選び方をまとめた記事もあわせて確認します
- 注意
- 材料単体で安全が決まるわけではないため、セル配置・構造・試験条件・規格要求とあわせて判断します
高圧コネクタ
- 条件
- 薄肉で電気絶縁性と寸法安定性を保ちつつ、部位によって耐トラッキング性や難燃性も確認したい
- 確認すること
- まず耐トラッキング性の要否を、耐トラッキング性を扱った記事で確認し、耐熱性・耐吸水性・耐加水分解性・難燃性のどれが分岐条件になるかを整理します
- 注意
- 充電ガン、インレット、機器間コネクタでは要求が同じではないため、部位ごとに優先順位を分けます
冷却部品
- 条件
- 高温のLLCに触れるバルブや配管で、耐LLC性、耐熱性、寸法精度、接合信頼性を確認したい
- 確認すること
- 使用するLLC、温度、時間、接合方法を先に整理し、耐熱性と、実際のLLC種類・温度・時間での長期評価を材料候補と一緒に確認します。耐薬品性の基礎的な見方は、耐薬品性の選び方をまとめた記事で確認します
- 注意
- 溶着性と寸法設計の間でトレードオフが生じる場合があるため、フィラー量と接合面設計を分けて確認します
駆動モーターの絶縁部品
- 条件
- インシュレーターや端子台で、耐熱性、電気絶縁性、薄肉流動性、耐ATF性、耐トラッキング性、難燃性を確認したい
- 確認すること
- インシュレーターと端子台を分け、薄肉流動性と強度、端子台の耐トラッキング性と難燃性の両立を確認します。難燃剤添加による副作用は、難燃剤による性能への影響を扱った記事で確認します
- 注意
- PPSやPPAは要求条件との組み合わせで候補になるため、材料カテゴリー名だけで決めません
PCU周辺部品
- 条件
- インバーターケース、バスバー保持部、平滑コンデンサーケースなど、部品ごとに要求が分かれる
- 確認すること
- 耐熱性、寸法安定性、耐ヒートショック性、耐トラッキング性、難燃性、そして平滑コンデンサーケースであれば吸水・透湿特性とポッティング材との界面密着のうち、どれが自部品に付くかを整理します。耐ヒートショック性の見方は、耐ヒートショックを扱った記事で確認します
- 注意
- 要求の分岐を確定させてから候補を絞ります。設計条件が固まる前に材料方向を決めません
最終的な候補材料は、使用温度、接触する液体、寸法条件、要求試験を具体化したうえで、材料メーカーへの確認を通じて判断します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 調達や在庫を考えると、複数の部品を1つの材料に統一したいのですが、可能ですか
材料の統一が成立しやすいのは、対象部品の要求特性と、その水準が近い場合です。最も要求の厳しい部品に合わせて材料を選ぶと、他の部品では加工条件の許容範囲や成形性、コストの面で不利になる場合があります。逆に緩い側へ合わせると、厳しい部品で要求を満たせません。統一の可否を検討する場合は、対象部品ごとに要求特性を書き出して見比べ、どの部品が要求水準を決めているのかを先に特定します。そのうえで、統一する範囲を部品群単位で区切るのか、材料カテゴリーだけをそろえてグレードを分けるのかを判断します。
Q2. 難燃性と耐熱性は同じものですか
別の要求です。難燃性は燃え広がりにくさ、耐熱性は高温で機械的・寸法的な性質を保てるかどうかを指し、見ている現象が違います。片方を満たしても、もう片方が自動的に満たされるとは限りません。難燃性を高めるための処方が強度や靭性に影響することもあるため、両方が必要な部品では、どちらの水準も個別に確認します。
Q3. 同じ材料カテゴリーなら、どのグレードでも同じ特性と考えてよいですか
同じとは考えられません。カテゴリーの傾向と、個別グレードの特性は別のものです。強化材の種類と量、難燃化の処方、添加剤などによって、強度、流動性、寸法安定性は変わります。推奨成形温度、乾燥条件、許容滞留時間といった加工要件も、グレードごとに異なる場合があります。加えて、データシートに載る代表値は、その値を保証するものではありません。部品として成立するかどうかは、代表値の比較ではなく、使用条件を伝えたうえでの材料メーカーへの確認と、実部品での評価で判断します。
Q4. 特性ごとにまとめた記事とは、どう違うのですか
見る軸が違います。特性ごとの記事は、その特性をどう読み、どの部品で必要になるかを掘り下げます。この記事は部品ごとに、1つの部品で複数の要求がどう重なり、何と何が両立しにくいかを整理します。まず自分の関心のある部品で、どの特性が求められるかをつかみ、そのうえで該当する特性の記事に進むと、遠回りせずに読み進められます。特性側の入口は、材料選定と特性の関係をまとめた記事です。
Q5. 要求特性を全部満たす材料が見つからないときは、どう進めればよいですか
要求をすべて満たす材料が残らない場合、判断の順序は3つあります。1つ目は、優先順位の確認です。どの要求が製品として外せないのか、どの要求が設計や工程で補えるのかを分けます。2つ目は、設計側での補完です。沿面距離の確保、肉厚や形状の見直し、インサート形状の変更などで、材料に求める水準を下げられる場合があります。3つ目は、部品分割です。要求が異なる部位を別部品に分けることで、それぞれの材料選択の幅が広がる場合があります。これらを整理したうえで、部位・温度・接触する液体・必要な試験条件を具体的に伝えて材料メーカーに相談すると、候補材料を絞り込みやすくなります。
まとめ
xEVの樹脂部品選定では、「この部品で何が求められ、どの特性を優先すべきか」を見極めることが出発点になります。バッテリーパック、高圧コネクタ、冷却部品、駆動モーター、PCUの5部品群を並べると、1つの部品に複数の要求が重なるために、単一の特性だけでは材料を決めにくいことが見えてきます。同時に、要求の厳しさによって、材料が絞られやすい部品と、設計・要求しだいで方向が変わりやすい部品に分かれます。
実務では、まず自分の担当部品で求められる特性を洗い出し、それらが両立しにくい組み合わせになっていないかを確かめてください。両立しにくい組み合わせが見つかった場合は、その要求を材料で満たすのか、設計で補うのかを設計レビューの論点として立てます。そのうえで、部位・温度・接触する液体・必要な試験条件を材料メーカーへ具体的に伝えると、候補材料を絞り込みやすくなります。
ここで示したのは、材料カテゴリーの相対的な傾向と、検討の入口です。最終的な判断は、適用する規格の確認、設計レビュー、材料メーカーへの確認を通じて行うことを前提にしてください。
参考資料
- Agreement Addendum 99: UN Regulation No. 100, Revision 3(UNECE)
- 電動化 | 自動車 | ソリューション | 東レの樹脂製品(東レ)
- Electric Vehicle Battery Packs(SABIC Specialties)
- SABIC TESTING SHOWS HIGH POTENTIAL OF PHASE-CHANGE THERMOPLASTICS IN PREVENTING THERMAL RUNAWAY IN EV BATTERIES(SABIC)
- 変性PPE樹脂「ザイロン」によるEVバッテリー熱暴走安全性ソリューション(旭化成)
- 耐トラッキング性などに優れたコネクタ向け樹脂材料(旭化成)
- バッテリーEVの熱マネジメントシステムを構成する樹脂材料(旭化成)
- 耐薬品性 | PPS樹脂 トレリナ(東レ)
- 物理的接合について | PPS樹脂 トレリナ(東レ)
- 高電圧下の沿面距離を短縮する耐トラッキング性に優れたPPS樹脂(東レ)
- E-Motor Applications for Enhanced Power and Efficiency(Syensqo)
- New Xytron PPS-compound boosts thermal shock resistance of electric vehicle busbars(Envalior)
- Electrification Solutions Under BLUEHERO™ Initiative Headline SABIC’s Automotive and Transportation Showcase at K 2022(SABIC)



