結論:規格内の変動で不良が出るのは、材料が変わったからとは限りません
材料ロットを切り替えた後に不良が出ると、材料は最初に確認する変化点のひとつになります。変化点から仮説を立てるという意味では、自然な順序です。
一方で、材料は規格の範囲内で常に変動しています。変動そのものは異常ではありません。そのため、規格内の変動が生じただけで良品が得られる範囲から外れるのであれば、その工程は、通常起こりうる変動を吸収できる幅を持っていなかったことになります。
シリーズの導入記事で扱った、材料ロットの変更を疑った事例がこれにあたります。現品を確認すると保圧時間がゲートシール時間に対して不足しており、工程として、材料の通常の変動を吸収できる状態にはなっていませんでした。
通常の変動とは具体的に何が変わることなのか、そして吸収できる工程かどうかをどのように判定するのかを、次の3点で確認します。
- 材料側で何が、どの区分の値として変動するのか
- 良品が得られる条件幅をどのように取り、どのように記録するのか
- 製品設計側が、変動を吸収しやすい形状にできる範囲はどこか
材料ロットが変わって不良が出たと報告されたときは、そのロットが規格内かどうかを確認します。同時に、その工程が規格内の変動を吸収できる幅を持っていたかどうかも確認します。
基礎整理:材料は規格内で変動します
成形に影響する代表的な変動要因
成形に影響しうる材料側の代表的な変動要因は、溶融粘度と水分率です。
溶融粘度は、溶融した樹脂の流れにくさを表す性質です。溶融粘度が変わると、同じ条件で成形しても充填の進み方が変わります。その結果、充填時間やクッション量といった成形機の出力値に差が出る場合があります。成形品側では、寸法や反り変形に差が出る場合があります。
水分率は、成形前の材料に含まれる水分の量です。乾燥状態や保管状態によって変わります。
このほかにも、材料側には変動しうる項目があります。ただし、その多くは最終的に溶融粘度への影響として現れます。そのため、成形工程が吸収すべき変動を考えるときは、まず溶融粘度と水分率を代表項目として置くと、確認の対象を絞りやすくなります。
代表値、納入規格、管理値は別のものです
材料の値には、性格の異なる区分があります。この区分を混同すると、材料メーカーへ問い合わせても得られない情報を求めることになります。
代表値は、カタログに記載される値です。標準的な条件で測定した参考値であり、ロット間でどれだけばらつくのか、どこまでが保証されるのかは、カタログからは分かりません。
納入規格は、納入先との仕様書等で定めた、出荷品の適合判定に用いる品質項目と範囲です。その範囲への適合が材料メーカーの保証対象になります。「納入仕様書」「納入規格」「規格値」「保証値」など、文書名や項目名はメーカーや契約によって異なるため、実際の仕様書等で確認します。
管理値は、材料メーカーが納入規格とは別に、社内管理のために設定する場合がある値です。管理値そのものは、顧客へ提示する納入規格と同義ではありません。管理値の有無、設定方法、名称、情報提供方針はメーカー、製品、契約によって異なります。具体的な社内値、管理幅、社内規程・社内基準は扱いません。
したがって、ロットの状態を確認する場合は、納入規格と対象ロットの検査結果を確認します。カタログの代表値だけでは、工程が吸収すべき変動の大きさを見積もれません。
規格内であることと、成形結果が同じであることは別です
対象ロットが規格内であるという検査結果は、材料が納入規格の範囲に収まっていることを示します。成形結果が前のロットと同じになることを示すものではありません。
納入規格には適合判定の範囲があり、その範囲の中で値が動くことは想定された状態です。したがって、規格内という確認は、材料側の議論を終わらせる情報ではなく、工程側が吸収すべき変動の大きさを見積もるための情報として使います。
用語の補足
- 溶融粘度とは、溶融した樹脂の流れにくさを表す性質です。流動性を示す方法として、MFR:Melt Mass-Flow Rate(メルトマスフローレイト)とMVR:Melt Volume-Flow Rate(メルトボリュームフローレイト)があります。また、キャピラリーレオメーターで溶融粘度を測定し、せん断速度に対する溶融粘度の変化を示すデータが用いられる場合もあります。MFR・MVRとキャピラリーレオメーターによる測定では得られる情報が異なります。どのデータが示されるかは樹脂種やグレードによって異なるため、使用するグレードのデータシートや技術資料で確認します。
- 規格内とは、対象ロットの検査結果が、仕様書等で定めた納入規格の範囲に収まっている状態を指します。
- プロセスウィンドウとは、良品が得られる成形条件の幅であり、条件を中心から多少動かしても良品が維持される範囲を指します。
材料の「なぜ」:エンプラでは規格内の変動が表面化しやすくなります
同じ幅の変動が生じても、それが不良として現れるかどうかは工程によって変わります。エンプラを使う工程では、次の2つの理由から、規格内の変動が表面化しやすくなります。
ひとつは、加工温度が高いことです。エンプラは汎用樹脂より高い温度で加工するため、成形の難易度が上がりやすくなります。温度、滞留時間、流動といった条件を組み合わせて成立させる必要があり、条件を決める際に考慮する項目が増えます。
もうひとつは、使われる部品の性格です。エンプラは重要な機構部品に使われることが多く、金型や工程を十分に設計しないまま量産に入ると、不具合が発生するリスクが大きくなります。不具合が起きたときに製品側で生じる影響も大きくなります。
この2つが重なるため、エンプラを使う工程では、規格内の変動を吸収できる幅を持たせておく必要性が、汎用樹脂を使う場合より高くなります。
なお、高機能化のための処方変更によって加工条件の許容範囲が狭くなるグレードはありますが、これは高機能材料全体の傾向とは断定できません。加工条件の許容範囲は個別グレードで確認します。処方と加工条件の許容範囲の関係は、成形条件の妥当性を扱う関連記事で整理しています。
判断フレーム:変動を吸収できる工程かをどう判定するか
推奨条件の中央から始めて、良品が得られる幅を取る
条件を決める手順は、材料メーカーの推奨条件の中央から始めます。そこからショートショットによる充填状態の確認、成形品の出来栄え、成形機の出力値を確認しながら条件を調整していきます。
中央から始める理由は、良品が得られたときに、どちら側にどれだけ余裕が残っているかを把握できるためです。端に近い位置から始めて良品が得られると、その条件で成立したという事実は分かりますが、変動がどちらへ生じたときに外れるのかが分かりません。
調整の過程で確認したいのは、良品が得られた一点の設定値ではなく、良品が得られる条件の幅です。この幅が、工程が吸収できる変動の大きさにあたります。
幅を記録に残す
確認した幅は記録に残します。記録の対象は、振った条件項目、良品が得られた範囲、そして良品かどうかの判断に使った出来栄えの項目です。
記録が必要になる理由は、判断の性格にあります。良品が得られる範囲をどこまでとするかの最終的な判断は、現状ではベテランの経験に頼るケースが多くあります。経験にもとづく判断は、限られた時間で成立させる方法として合理的な面があります。一方で、判断の根拠が記録に残らなければ、後から確認する手段がありません。
記録が残っていれば、担当者が変わった後でも、不具合が起きたときに、現在の条件が確認した幅のどこにあるのかを照合できます。
省略する場合は、省略した理由を残す
条件を振って良品が得られる範囲を確認する手順は、省略しないことを推奨します。
現場では、類似製品の実績がある場合などに省略されるケースがあります。省略する場合は、省略した理由を明確にし、記録に残してください。何を確認していないかが分かる状態であれば、不具合が起きたときに、何から確認すべきかを判断しやすくなります。
省略した事実が残っていない場合、不具合が起きた時点で、条件幅を確認していないのか、確認したうえで十分と判断したのかを区別できません。この区別がつかないと、原因の候補を絞る作業からやり直すことになります。
判定の対象は工程であり、材料の優劣ではありません

規格内の変動で不良域に入ることが分かった場合、判定の対象になるのは工程側の幅です。材料が劣っているという判断にはなりません。
同じ材料でも、製品形状、金型、成形機、条件の組み合わせによって、吸収できる幅は変わります。材料を変更しても、幅が狭い状態そのものが解消されるとは限りません。
なお、連続成形での再現性や、成形機の出力値の見方は、成形条件の妥当性を扱う関連記事で整理しています。
用途別・条件別の整理
金型製作前の製品設計を進めている
製品設計側が、条件幅の広さに最も影響を与えられる段階です。
代表的なのは、成形品の樹脂肉厚です。薄肉部の肉厚をわずかに厚くするだけでも、流動の難易度が下がり、無理な成形条件を組まずに済む場合があります。たとえば0.5mmの薄肉部を0.8mmにするといった変更です。効果は元の肉厚や形状によって変わるため、一律の目安として扱う値ではありません。
この判断は、金型製作前、射出成形流動解析の段階で行うことが望ましい内容です。金型製作後に肉厚を変更する場合、金型の修正や作り直しを伴うことがあります。流動解析そのものの使い方は、解析を扱う関連記事で整理します。
ゲートの位置も条件幅に関わります。外観や機能上の理由でゲートを設置できる位置に制約がある製品は、成形難易度が上がる要因になるケースがあります。制約がある場合は、その理由と範囲を金型設計側へ早い段階で伝えると、ゲート数や流動経路の検討に反映しやすくなります。
量産移行を控えている
確認したいのは、良品が得られる条件幅の記録があるかどうかです。
記録がある場合は、現在の設定値がその幅のどこにあるかを確認します。端に近い位置にある場合は、その理由を確認します。
記録がない場合は、確認を省略した理由の記録があるかを確認します。どちらもない場合、量産開始後の材料ロット切替などを契機に、幅の狭さが初めて表面化するおそれがあります。この段階での是正では、条件変更によって寸法が変化する場合があるため、寸法への影響確認を含む負担が生じます。必要に応じて金型や規格の見直しも検討します。
材料ロットの変更後に不良が発生したと報告された
材料メーカーへ問い合わせる場合、材料側の確認は次の順序で進みます。
材料メーカーは、まずグレード、カラー、ロットを確認し、そのロットの材料データを確認します。その後、成形時に発生している不具合について詳細をヒアリングし、分析が必要か、成形条件の見直しが必要か、その他の対策が必要かを判断します。そのうえで、顧客との打ち合わせを重ねて対応を決めます。
この順序から逆算すると、問い合わせの時点でグレード、カラー、ロットを揃えて伝えると、材料側の確認が先に進みます。あわせて、不具合の現象、発生時期、現品の状態、成形条件の変更有無を整理しておくと、ヒアリングの往復が減ります。
なお、成形品に異物が発見された場合は、分析による切り分けが必要になる場合があります。異物がどこで混入したかの判断は、規格内の変動とは別の論点になるため、原因調査を扱う記事の範囲として扱います。
すでに量産している
条件変更によって寸法が変化する場合があるため、幅を広げる方向の是正では、寸法への影響確認を含む負担が生じます。
それでも、材料ロットの切り替わりのたびに調整が必要になっている、特定のロットでのみ不良率が上がる、といった状態が続いている場合は、工程が吸収できる幅を確認し直す価値があります。是正を検討する場合は、条件変更だけで完了する計画にせず、寸法変化と、金型や規格の見直しが必要になる可能性を、あらかじめ関係者と共有します。
量産中に発生した不良について、何が変わったかを追跡する手順は、量産工程の変化を扱う関連記事の範囲です。
判断早見表
金型製作前の製品設計を進めている
- 次に判断すること
- 要求性能を満たす形状かどうかだけでなく、材料の通常の変動を吸収できる形状かどうかを、金型製作前に判断します。
- 設計で確認すること
- 薄肉部の肉厚に余裕を持たせられるか。ゲート位置に制約がある場合、その理由と範囲を金型設計側へ伝えているか。
- 材料メーカーへ確認すること
- 使用グレードの納入規格。流動性に関わる項目が含まれているか、含まれている場合はその試験条件と規格範囲。
- 設計レビューで確認すること
- 射出成形流動解析の結果を、金型製作前に製品形状へ反映する計画になっているか。
量産移行を承認する立場にいる
- 次に判断すること
- 良品が得られたかどうかではなく、良品が得られる条件幅が確認され、記録されているかで判断します。
- 成形側へ確認すること
- 条件を振って良品が得られる範囲を確認したか。確認した場合はその記録、省略した場合は省略した理由の記録。
- 現品と記録で確認すること
- 現在の設定値が、確認された幅のどこにあるか。端に近い場合はその理由。
- 設計レビューで確認すること
- 幅が狭いことが分かった場合に、製品形状、金型、材料選定のどれで対応するかを、誰がいつ判断するか。
材料ロットの変更後に不良が出たと報告された
- 次に判断すること
- 対象ロットが規格内かどうかの確認と並行して、その工程が規格内の変動を吸収できる幅を持っていたかを確認します。
- 材料メーカーへ伝えること
- グレード、カラー、ロット。不具合の現象、発生時期、現品の状態、成形条件の変更有無。
- 材料メーカーへ確認すること
- 対象ロットと前ロットの検査結果が、それぞれ納入規格の範囲内にあるか。両ロットの値が納入規格の範囲のどこに位置するか、その差がどの程度か。
- 成形側へ確認すること
- 立ち上げ時に確認した条件幅の記録があるか。現在の設定値がその幅のどこにあるか。
よくある質問(FAQ)
Q1. 材料が規格内なら、材料メーカーへ確認することはありませんか
規格内という確認は、材料が納入規格の範囲に収まっていることを示すもので、確認の終点ではありません。納入規格には適合判定の範囲があり、その範囲の中で値が動くことは想定された状態です。対象ロットと前ロットの検査結果が、それぞれ納入規格の範囲内にあるかを確認し、あわせて両ロットの値が納入規格の範囲のどこに位置するか、その差がどの程度かを確認します。工程が吸収すべき変動の大きさを見積もるための情報として使います。
Q2. カタログの代表値を見れば、ばらつきの幅は分かりますか
分かりません。代表値は標準的な条件で測定した参考値であり、ロット間の変動幅を示すものではありません。変動の範囲を確認したい場合は、納入先との仕様書等で定めた納入規格を確認します。材料メーカーは、納入規格とは別に社内管理のための管理値を設定する場合がありますが、管理値は納入規格と同義ではありません。管理値の有無や情報提供方針はメーカー、製品、契約によって異なり、具体的な社内値、管理幅、社内規程・社内基準は扱いません。
Q3. ロットを戻したら不良が止まりました。材料が原因ではないのですか
不良が止まったことと、原因が特定できたことは同じではありません。前のロットで良品が得られるのは、そのロットの値が、現在の狭い条件幅の中に偶然入っている場合もあります。この状態では、次に同じ方向の変動が生じたときに再発します。ロットを戻す対応は当面の生産を継続する手段として有効ですが、条件幅の確認とは別に扱います。不良が止まった後の原因判断は、原因調査を扱う記事の範囲です。
Q4. 条件を振って幅を確認する時間が取れない場合はどうしますか
省略しないことを推奨しますが、実際には類似製品の実績がある場合などに省略されるケースがあります。その場合に必要なのは、省略した理由を記録に残すことです。何を確認していないかが分かる状態であれば、不具合が起きたときに何から確認すべきかを判断できます。記録がない場合、確認していないのか確認したうえで十分と判断したのかを後から区別できません。
Q5. プロセスウィンドウが狭い材料は、選ばないほうがよいですか
材料カテゴリー単位で判断できる事項ではありません。条件幅は材料だけで決まるものではなく、製品形状、金型、成形機、条件の組み合わせで変わります。材料を変更しても、形状や金型に起因する狭さが解消されるとは限りません。要求性能から材料を絞ったうえで、その材料で必要な幅を確保できる形状と金型になっているかを確認する順序になります。
Q6. 成形条件を設定する立場ではありませんが、できることはありますか
あります。金型製作前であれば、薄肉部の肉厚とゲート位置の制約という、条件幅に直接影響する項目を製品設計側で扱えます。量産移行前であれば、良品が得られる条件幅の記録を確認できます。材料ロット変更後の不良であれば、グレード、カラー、ロットを揃えて材料メーカーへ伝えることで、材料側の確認を先に進められます。条件を設定することと、条件幅が確保されているかを確認することは別の行為です。
まとめ
材料は規格の範囲内で変動しています。変動そのものは異常ではありません。規格内の変動が生じただけで良品が得られる範囲から外れるのであれば、確認すべき対象は、材料が変わったかどうかだけではなく、工程が吸収できる幅を持っていたかどうかになります。
成形に影響する代表的な変動要因は、溶融粘度と水分率です。ほかの要因の多くは、最終的に溶融粘度への影響として現れます。変動の幅を確認するときは、カタログの代表値ではなく、納入規格と対象ロットの検査結果を見ます。材料メーカーは、納入規格とは別に社内管理のための管理値を設定する場合がありますが、管理値は納入規格と同義ではありません。管理値の有無や情報提供方針はメーカー、製品、契約によって異なります。
工程側の幅は、推奨条件の中央から始め、ショートショットによる充填状態の確認、成形品の出来栄え、成形機の出力値を確認しながら条件を調整する過程で把握します。良品が得られる条件幅は記録に残します。範囲をどこまでとするかの最終的な判断は経験に頼るケースが多く、記録がなければ後から照合できないためです。確認を省略する場合も、省略した理由を記録に残します。
製品設計側にも、条件幅へ影響を与えられる範囲があります。薄肉部の肉厚に余裕を持たせること、ゲート位置の制約とその理由を金型設計側へ早い段階で伝えることです。いずれも、金型製作前、射出成形流動解析の段階で判断することが望ましい内容です。
材料メーカーへ問い合わせる場合は、グレード、カラー、ロットを揃えて伝えます。材料側はこの情報からロットのデータを確認し、不具合の詳細を聞いたうえで、分析、条件の見直し、その他の対策のいずれが必要かを判断します。問い合わせる側でこの順序を把握しておくと、確認の往復を減らせます。
設計レビューで確認しておきたいのは、条件幅が狭いと分かった場合に、製品形状、金型、材料選定のどれで対応するかを、誰がいつ判断するかです。量産開始後にこの判断を始める場合は、条件変更によって寸法が変化する場合があるため、寸法への影響確認を計画に含め、必要に応じて金型や規格の見直しを検討します。
参考資料
- 溶融粘度特性、流動性|PPS樹脂 トレリナ™(東レ株式会社)
- ユーピロン™/ノバレックス™ 成形編(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)
- 金型設計の基本的な考え方|PPS樹脂 トレリナ™(東レ株式会社)



