EV冷却系部品の樹脂選定|PPSが選ばれる理由から解説

車両中央床下のバッテリーへ往復するEVの冷却水ループと、電動ウォーターポンプ、バルブ、クランプ締結した冷却配管・ジョイントの拡大図を示した技術イラスト。

結論:この記事で分かること

高温の冷却水が通る樹脂部品では、PPS(ポリフェニレンサルファイド)が使われている例があります。ただし、部品ごとに必要な温度、寸法、荷重、接触する媒体、要求する寿命を確認しないまま、一律にPPSへ絞り込むことはできません。PPSはスーパーエンプラ(エンジニアリングプラスチックの中でも耐熱性の高い区分)に分類され、150℃を超える温度域に対応する樹脂です。冷却水の温度が低い部品では、PPS以外にも候補が広がる場合があります。

高温の冷却水が通る部品でPPSが候補になるのには理由があります。PPSは吸水による寸法変化が小さく、冷却水に長期間触れた後の特性保持やクリープ特性にも優れています。どの特性がどの水準で求められるのかを分けて整理すると、担当する部品で必要な材料の水準を判断できます。

この記事で整理するのは、次の3点です。

  • 吸水による寸法・機械特性の変化と、冷却水による劣化は、確認する条件が違います
  • PPSは、複数の特性を同時に高い水準で満たす材料です
  • 冷却水の温度が低い部品では材料の候補が広がる場合があり、無理抜きのような形状の制約がある部品では候補が絞られます

この記事の範囲は、冷却水(LLC)が通る樹脂部品の要求特性と、材料メーカーへの確認事項までです。冷媒回路の部品、油冷まわりの部品、バッテリーの熱管理そのものは扱いません。個別のグレード選定や保証値の判断も扱いません。

電動ウォーターポンプ、バルブ、冷却配管・ジョイントを3分割で並べ、各部品で確認する温度、寸法、荷重、耐久性、接合・接続条件を示した図。

基礎整理:EVで変わった冷却の考え方

エンジン車でも、冷却水による温度管理は行われてきました。EVで変わるのは、管理する対象と目的です。

EVでは、バッテリーをはじめとする機器を適切な温度範囲に保つことが求められます。熱を捨てるだけでなく、必要なときに温めることや、車両全体で熱を利用することも設計の対象になります。

バッテリーの温度管理は、性能、寿命、車両のエネルギー効率に関わります。インバータなどの機器も、適切な温度管理が必要です。ただし、求められる温度域や管理の条件は、バッテリーとは異なります。

電動車の冷却方式には、空冷、冷却液を用いる方式、冷媒を用いる方式などがあります。車両全体で熱を管理するため、複数の機能や流路を1つにまとめる構成があります。冷却液の回路と冷媒の回路を、熱交換器を介して組み合わせる例もあります。

冷却水が通る樹脂部品には、次のようなものがあります。

  • 電動ウォーターポンプ(冷却水を循環させるポンプ)
  • 各種バルブ(流路を切り替える部品)
  • 冷却配管とジョイント

この記事で使う言葉も、先にそろえておきます。

LLCは、冷却水として使われる不凍液(ロングライフクーラント)を指します。

吸水は、樹脂が周囲の水分を取り込むことによる物理的な変化です。分子鎖が切れるわけではありません。加水分解は、水分がポリマーの分子鎖を切り、分子量が下がって強度などが低下する劣化です。分子鎖が切れているため、乾燥させても元には戻りません。

クリープは、一定の荷重が加わり続けたときに、時間とともに変形が進む現象です。疲労は、繰り返し加わる荷重によって損傷が進む現象です。静的な試験で破断する荷重より低い荷重でも、破壊に至ることがあります。

アンダーカットは、金型を開く方向に対して引っかかり、そのままでは製品を取り出せない形状です。取り出すために金型側へ別の機構が必要になる場合があり、金型構造が複雑になります。製品設計では、機能上必要のないアンダーカットは設けません。

材料の「なぜ」:冷却水が通る部品に何が求められるか

冷却水が通る部品では、次の要求を組み合わせて検討します。どの要求をどこまで求めるかで、材料の候補が絞られていきます。

吸水は、寸法と機械特性に影響します

樹脂が水分を取り込むと、寸法が変化します。強度や剛性といった機械特性も変わります。冷却水の中で使われる部品では、この状態が続くことを前提に設計することになります。

電動ウォーターポンプでは、この影響が性能に直接現れます。ポンプの性能は、インペラとそれを囲むカバーとのクリアランス、つまり隙間の寸法によって変わります。樹脂が吸水して寸法が動くと、設計時に想定したクリアランスが保てなくなります。クリアランス管理が必要なポンプでは、吸水を含む使用中の寸法変化を考慮して材料を選びます。

吸水については、水分を吸った状態での寸法と機械特性がどれだけ変わるかを確認します。冷却水に長期間触れた後の劣化とは分けて評価します。

冷却水による劣化は、吸水とは別に確認します

加水分解を受ける樹脂では、高温の冷却水に長期間触れ続けることで反応が進み、強度などの特性が低下します。どこまで低下するかは、温度と時間の条件によって変わります。

吸水率が小さいことと、冷却水に長期間耐えることは別の話です。吸水率の小ささだけでは、耐LLC性を判断できません。確認するときは、水分を吸った状態での寸法と物性を見ることと、決められた液の組成・温度・時間で劣化させた後にどれだけ特性が保たれているかを見ることを、分けて評価します。

長期の荷重と、振動による繰り返し荷重を確認します

冷却系の部品では、荷重が加わり続ける状態と、繰り返し加わる状態の両方を確認します。配管がクランプで締結されている箇所では荷重が加わり続けるため、クリープによる変形を確認します。走行中の振動は繰り返しの入力になるため、疲労も確認対象になります。どちらも、短時間の試験で得られる強度からは判断できません。

これらを同時に満たす材料として、PPSが使われています

寸法精度が高いこと、吸水量が小さいこと、高温の冷却水に長期間耐えること、そして荷重が続く条件でも変形しにくいこと。PPSは、これらをいずれも高い水準で満たす材料です。クリアランスの管理が性能に直結し、かつ冷却水の温度が高くなるポンプでは、PPSが選定される傾向です。

求められる特性の組み合わせが変われば、PPS以外の材料も比較の対象に入ります。

吸水状態での寸法・機械特性、LLC環境での温度・時間と特性保持、持続荷重・繰り返し荷重によるクリープ・疲労を分けて確認し、材料候補の比較へ集約する図。

判断フレーム:条件を分けて、候補の範囲を決めます

要求の水準を、項目ごとに分けて決めます

材料の検討に入る前に、次の項目を分けて水準を決めます。

  • 冷却水の温度範囲
  • 要求する寿命(冷却水に触れ続ける期間)
  • 必要な寸法精度
  • 加わる荷重の種類(一定の荷重が続くのか、繰り返し加わるのか)
  • 形状の制約(部品の大きさ、最小肉厚、バリの許容範囲)
  • 気密の確保方法

材料の候補を整理するときは、まず温度から見ます。そのうえで、要求する寿命、寸法精度、加わる荷重、形状の制約、気密の確保方法を順に確認していきます。冷却水の温度が高い部品では、高温での耐LLC性が候補を絞る要因になります。温度が低い部品では、この要因が候補を絞る度合いは小さくなります。

温度が低い部品では、候補が広がる場合があります

冷却水の温度が低い部品では、PPS以外にも候補が広がる場合があります。ただし温度だけで決まるわけではなく、寸法、荷重、接触する媒体、要求する寿命を合わせて比較することになります。

低温側の熱管理用途について、POM(ポリアセタール)や長繊維のガラスで強化したPP(ポリプロピレン)を提案するメーカー資料があります。適用できるかどうかは、冷却水の組成、温度、圧力、要求する寿命を、部品ごとに確認して判断します。

ただし、温度の要求水準を下げられる部品でも、寸法精度と長期の荷重について、同じように水準を下げられるとは限りません。項目ごとに、水準を下げられるかどうかを分けて確認します。

形状の制約から、候補が決まる場合があります

温度以外の理由で候補が絞られることもあります。その代表が、型の抜き方です。

ホースの抜け止め形状を持つ接続部では、シールに関わる位置にバリが出ないよう管理します。金型の分割位置や仕上がりによっては、バリ取りが必要になります。

無理抜きは、成形品を一時的に変形させて型から取り出す離型方法です。シール面となる接続部に金型の分割を置かずに済む場合があり、バリ取りの手間を減らせることがあります。形状によっては、複数の部品を1つの成形品にまとめることにも役立ちます。

無理抜きでは、離型のときに生じる変形に材料が耐える必要があります。剛性だけで判断せず、伸びや靭性、離型時の温度や形状の条件を合わせて確認します。

PPA(高耐熱のポリアミド系樹脂)は、この条件での選択肢のひとつです。PPA製のウォーターアウトレットで、ホース接続部の抜け止め形状を無理抜きで成形した例が報告されています。また、耐加水分解性と、アンダーカット部を無理抜きできることを特長に挙げたPPA系グレードの提案もあります。

無理抜きの要否と離型の方法は、材料候補と併せて検討します。

処方を変えるときに、併せて確認します

処方を変えると、次の項目にも影響します。

  • 強度や剛性を確保する処方を選ぶときは、薄肉部への充填性も併せて確認します。どこまで両立できるかは、材料の処方、形状、成形条件によって変わります
  • フィラーを含む材料では、母材の物性だけでなく、成形時にできるウエルド部の強度と靭性も確認します。フィラー量だけで結果が決まるわけではありません

処方や成形条件を変えたときに併せて確認する項目は、性能向上と失うものを横断的に整理した記事にまとめています。

気密の確保方法は、材料候補にも関わります

冷却水の気密は、パッキンを用いた締結か、樹脂どうしの溶着で確保します。どちらを選ぶかは、材料と組み合わせて検討することになります。

分解のしやすさが必要な場合や、金属と樹脂のように異なる材料どうしを締結する必要がある場合は、パッキンを用いた締結構造を候補として比較します。必要な部材や組み立て工程は、締結構造によって変わります。

溶着では、シール部材や組み立ての工程を減らせる場合があります。構成部材や接合構造を見直すことで、部品の小型化に寄与する場合もあります。ただし、自動化のしやすさや形状の制約は、締結の構造、溶着の方式、使う設備によって変わります。溶着では、基本的に同種の樹脂どうしの組み合わせを検討し、相手材との適合性を工法と併せて確認します。

溶着を選択肢に含める場合は、片方の部品だけを見て材料を確定せず、ハウジングとカバーのように接合される部品どうしを1つの組み合わせとして検討することになります。

接合面の設計、押し付け方、密着の管理といった設計側の条件については、材料側と設計側の役割を分けて整理した記事が参考になります。

用途別・条件別の整理

電動ウォーターポンプ

電動ウォーターポンプで樹脂が使われるのは、冷却水を送り出すインペラ、その周囲の流路を形づくるカバーやハウジング、そしてインペラを回転させるモーター部位です。

要求が厳しくなる理由のひとつは、回転する部品とそれを囲む部品の隙間が性能を左右することです。インペラとカバーのクリアランスが設計値から外れると、ポンプとしての性能に影響します。そのため、成形時の寸法精度が高いことと、使用中に寸法が動きにくいことが同時に求められます。冷却水の中で使われるため、吸水による寸法変化が、この寸法精度に直接影響します。

この部品では、寸法精度が高く吸水量の小さい材料が求められるため、PPSの使用例があります。電動ウォーターポンプ向けには、PPSのほかにPA系材料の提案もあります。適するかどうかは、部品ごとの寸法、耐久性、接合条件をもとに確認します。車両の振動が繰り返しの入力になるため、疲労も確認対象に加わります。

強度や剛性を確保する処方を選ぶときは、薄肉部への充填性も併せて確認します。どこまで両立できるかは、材料の処方、形状、成形条件によって変わります。モーター部位と流路を隔てる構造を持つ場合は、その隔壁について、肉厚、加わる荷重、成形のしやすさを併せて確認します。

バルブ

車両全体で熱を管理する構成では、複数の流路を切り替える部品が使われます。ここで対象になるのは、流路を切り替えるバルブと、それを収めるハウジングです。

要求が生じる理由は、流路を切り替える機能そのものにあります。流路を確実に切り替えるにはシール面と接触部の寸法が保たれている必要があり、ここに吸水による寸法変化が関わります。切り替えのたびに部品どうしが接触するため、その面の状態を長期にわたって保つことも求められます。

1つの部品でも、機能の違う部位は要求を分けて整理します。摺動する部分と、それを収めるハウジングとでは、求められる性質が違います。部品全体を1つの材料でそろえる前提を置かず、それぞれに必要な水準を決めてから候補を比較します。

バルブでも、まず冷却水の温度を確認し、続けて組成、圧力、要求する寿命を確認します。温度の水準を下げられる部品でも、他の項目まで同じように下げられるとは限りません。シール面の寸法精度と、内部に加わる荷重に対する変形は、温度とは別に確認します。

強度や剛性を確保する処方を選ぶときは、シール面の寸法精度を保てるかどうかを併せて確認します。部品の名前だけで材料を絞り込むことはできません。

冷却配管とジョイント

冷却配管とジョイントが担うのは、冷却水を運ぶ流路と、その接続部です。冷却配管には、PA系の樹脂やPPSによる樹脂化の提案と使用例があります。

要求の中心は、冷却水に長期間触れた状態での特性保持と、締結部に加わる荷重への対応です。

配管がクランプで固定される箇所では、締結部に荷重が加わり続けます。この状態が長期間続くと、クリープによる変形が進み、締結力の低下や気密の低下につながる場合があります。組み付け時や車両側から加わる荷重に対して破損しないだけの強度が必要になる場面もあります。強度や剛性を確保する処方を選ぶときは、成形時の充填性とウエルド部の強度・靭性も併せて確認します。そのうえで、どの荷重条件を優先するかを先に決めます。

ホースの抜け止め形状を持つ接続部では、シールに関わる位置にバリが出ないよう管理します。無理抜きを前提とする場合は、離型時の変形に材料が耐えられるかを、伸びや靭性、温度、形状の条件から確認します。離型の方法は、材料候補と併せて検討します。

なお、冷却水以外の液体、たとえば油と接触する部品は、要求の組み合わせが変わるため、この記事では扱いません。液体との接触を材料側からどう見るかという考え方は、耐薬品性の選び方をまとめた記事で整理しています。

判断早見表

電動ウォーターポンプ

次に判断すること
インペラとカバーのクリアランスを、どこまでの寸法変化を許容して設計しているかを確認します。
使用条件で確認すること
冷却水の温度範囲と、想定する使用期間を具体的な条件として決めます。
材料側で確認すること
吸水による寸法変化の大きさ、高温の冷却水に長期間触れた後の特性保持、振動による繰り返し荷重に対する疲労特性を材料メーカーへ確認します。
製品設計で確認すること
モーター部位と流路を隔てる構造を持つ場合は、その隔壁について、肉厚、加わる荷重、成形のしやすさを併せて確認します。

バルブ

次に判断すること
シール面や接触部に必要な寸法精度、温度、加わる荷重を分けて整理し、どれが候補を絞る要因になっているかを確認します。
使用条件で確認すること
冷却水の温度範囲に加え、組成、圧力、要求する寿命を具体的な条件として決めます。
材料側で確認すること
候補に入る材料カテゴリーについて、決めた使用条件での適用可否と、シール面の寸法精度を保てるかを材料メーカーへ確認します。
製品設計で確認すること
シール面と接触部のうち、どこが最も寸法精度を必要とするかを特定します。摺動する部分と、それを収めるハウジングとで求められる性質が違わないかも分けて整理します。

冷却配管とジョイント

次に判断すること
取り付け部に無理抜きが必要かどうかを確認し、離型の方法を材料候補と併せて検討します。
使用条件で確認すること
クランプの締結力、車両側から加わる荷重、振動の条件を具体化します。
材料側で確認すること
想定する温度と期間でのクリープ特性、荷重に対する強度、無理抜きを想定したグレードの有無を材料メーカーへ確認します。
製品設計で確認すること
シールに関わる位置へバリが出ない金型の分割になっているか、仕上がりによってバリ取りが必要かを確認します。

材料メーカーへ相談するとき

部品と使用条件
冷却水の温度範囲、触れ続ける期間、加わる荷重と振動を具体的に伝えます。
寸法要求
どの箇所にどれだけの精度が必要か、寸法変化をどこまで許容できるかを示します。
気密方式
パッキンと溶着のどちらを想定しているか、溶着の場合は相手側の部品も含めて伝えます。
形状の制約
部品の大きさ、最小肉厚、アンダーカットの有無と離型の方法を伝えます。
評価条件
どの温度で、どれだけの時間、どの状態で評価するのかを決めたうえで相談します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 冷却系ならPPSを選んでおけば安全ですか。

部品によって答えが変わります。PPSは冷却系の樹脂部品に使われている材料のひとつで、高い寸法精度と小さい吸水量が同時に求められる部品では使用例があります。一方、冷却水の温度が低い部品では、ほかの材料も候補になる場合があります。温度だけで決めず、寸法精度、荷重、接触する媒体、要求する寿命を並べて比較してください。

Q2. 吸水と、冷却水による劣化は何が違いますか。

吸水は、樹脂が水分を取り込むことによる物理的な変化で、寸法だけでなく強度や剛性といった機械特性にも影響します。分子鎖が切れるわけではありません。加水分解は、水分がポリマーの分子鎖を切り、分子量が下がって強度などが低下する劣化で、分子鎖が切れているため乾燥させても元には戻りません。吸水率の小ささだけでは耐LLC性を判断できないため、水分を吸った状態での寸法と物性を見ることと、決められた液の組成・温度・時間で劣化させた後の特性保持を見ることを、分けて評価します。

Q3. 吸水率が小さい材料を選べば、寸法の問題は起きませんか。

吸水は寸法変化の要因のひとつです。実際の寸法は、成形時のそりや残留したひずみ、温度による膨張と収縮、荷重による変形も合わせて決まります。吸水量が小さい材料を選ぶことは有効ですが、それだけで必要な精度が保証されるわけではありません。どの要因がどれだけ寄与するかを分け、材料で抑える部分と設計で吸収する部分を決めることになります。

Q4. 温度が低い部品では、どこまで候補が広がりますか。

温度は候補の範囲に大きく影響しますが、温度の水準を下げられたからといって、他の項目まで下げられるわけではありません。寸法精度、加わる荷重、要求する寿命は、温度とは別の軸で残ります。低温側の熱管理用途にPOMや長繊維のガラスで強化したPPを提案するメーカー資料もありますが、その資料が示しているのは、低温側の熱管理用途への材料提案です。自分の部品では、水準を下げられる項目とそうでない項目を分けて確認してください。

Q5. 無理抜きが必要な形状では、材料で対応できますか。

材料の選択で対応できる部分はありますが、材料だけで決まるものではありません。無理抜きでは、離型のときに生じる変形に材料が耐える必要があります。剛性だけで判断せず、伸びや靭性、離型時の温度や形状の条件を合わせて確認します。PPA製のウォーターアウトレットで、ホース接続部の抜け止め形状を無理抜きで成形した例が報告されています。アンダーカット部を無理抜きできることを特長に挙げたPPA系グレードの提案もあります。材料、抜き方、形状、成形条件を併せて検討します。

Q6. 接続部のバリは、材料選定に関係しますか。

関係します。バリが問題になるのは、シールに関わる位置に金型の分割がある場合です。この位置を避けられる形状であれば、材料側の制約は変わりません。避けられず無理抜きを選ぶ場合は、離型時の変形に材料が耐える必要があるため、候補が絞られます。つまりバリは、材料を直接決める要因ではなく、金型の分割位置を通じて材料の条件を変える要因です。

Q7. 溶着とパッキンは、どちらを選ぶべきですか。

どちらが有利かは、部品の種類では決まりません。分解のしやすさや、金属と樹脂のように異なる材料どうしの締結が必要かどうかが、パッキンを選ぶ側の判断になります。溶着を選ぶ場合に注意が必要なのは、基本的に同種の樹脂どうしの組み合わせになる点です。片方の部品だけで材料を確定できなくなるため、この判断を材料選定より後に回すと、絞り込んだ候補が使えなくなることがあります。

Q8. カタログの強度が十分なら、クランプ部の破損は防げますか。

短時間の試験で得られる強度と、荷重が加わり続けたときの挙動は別のものです。クランプで締結された箇所には荷重が長期間加わるため、クリープによる変形が進む場合があります。締結力の低下や気密の低下は、この経過の中で現れます。走行中の振動が繰り返しの入力になる部品では、疲労も別に確認します。想定する温度と期間の条件を決めたうえで、時間の経過を含む特性を確認する必要があります。

まとめ

エンジン車でも、冷却水による温度管理は行われてきました。EVで変わるのは管理する対象と目的で、バッテリーをはじめとする機器を適切な温度範囲に保ち、必要なときに温めることや車両全体で熱を利用することも設計の対象になります。冷却水が通る樹脂部品では、吸水による寸法と機械特性の変化、高温の冷却水に触れ続けた後の特性保持、振動による疲労と長期の荷重によるクリープ変形を組み合わせて確認します。これらが同時に高い水準で求められる部品で、PPSが使われています。

一方で、求められる特性の組み合わせは部品によって変わります。冷却水の温度が低い部品では、PPS以外にも候補が広がる場合があります。ただし温度だけで決まるわけではなく、寸法、荷重、接触する媒体、要求する寿命を合わせて比較します。形状の制約と気密の確保方法も項目ごとに分けて確認します。

実務では、まず使用条件と要求を具体的な数値や範囲にします。次に、離型の方法と接合の方式を、材料候補と併せて検討します。そのうえで材料メーカーへ相談し、最終的な適用は設計レビューで判断します。

ここで示したのは一般的な傾向と確認の順序であり、挙げた材料は候補の目安です。同じように部品ごとに要求を整理した例は、高圧コネクタと充電インレットを扱った記事にもあります。

参考資料

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